さて、生け垣が完成して間もなく、王は臣下たちとこんな話をしていました。
(王)「果樹園はどうなったのか。集めてきた者たちはうまく育てて実を結ばせているのか。そろそろ収穫の時期ではないか」。
(臣下)「夏に突如虫が湧いて木がぼろぼろになってしまう被害があったと聞いています。また、今年は大嵐が来たので、この土地に慣れていない者たちは実が落ちてしまったと聞いています。ですので、この土地に慣れている者や運良く虫の害を免れた者たちは収穫があるかもしれませんが、全体的に収穫は少ないのではないかと推測されます」。
それを聞いて王は憤りました。
(王)「だからといって私に来年まで待てというのか!ただで農夫たちを集めているわけではないのだぞ!注意深い者ならばそれらの難を逃れて今年私の前に収穫を差し出すだろう。そして、そのような者こそ私の果樹園を任せるにふさわしいのではないか。さあ、収穫の時になったらすぐに農夫たちを集めて集めた者を出させるのだ」。
さて、収穫の時になって、王が今年の収穫で果樹園を任せる人を決めるようだと噂が流れ、農夫たちの間では困惑が広がりました。王の前に差し出せるものが少なければきっと良くないことになるだろうと思い、農夫たちはそれぞれ逃れる道を探りました。
そんなある日の朝でした。一人の農夫が自分の果樹になっていた実がいつの間にかなくなっていると大騒ぎをしていました。
(農夫3)「一体誰がこんなことを!私が育てた実がどこにもないじゃないか!こんなに苦労して結んだ実を盗むなんて、良心というものがあるんじゃないのか!」
タダシはそれを聞いて身の毛がよだちました。自分は数個だけ誰かに取られた時点で生け垣を作ったからそれ以上何も被害はありませんでしたが、もしその時数個盗まれなかったなら今になって全ての実がその農夫と同じように盗まれていたのだと悟ったからです。
(タダシ)「これはなんたる偶然だ。いくつかの実と引き換えに結局は全ての実を守ることになったとは…」。
タダシは急いで生け垣の中の実を全て収穫して、王の前に差し出せるように準備を整えました。そうして、王の命令が出て、農夫たちは各々収穫を携えて王の前に集まりました。
(王)「諸君、この一年、果樹園の管理でご苦労だった。かつて諸君が初めて集められた時、私は『最も多くの実を実らせた者には果樹園を任せる』と言ったが、今がその一人を選ぶ時になった。さあ、諸君の収穫を見せてもらおう」。
そうして一人ひとり名前を呼ばれて、王の前に収穫を差し出しました。ある農夫はひたすら雑草を抜いていて、彼が任されていた果樹園は雑草がなくきれいになっていましたが、収穫もあまりありませんでした。
(王)「ずいぶんと少ないようだな」。
(農夫4)「今年は雑草をきれいに抜いて木に栄養が行き届くようにして、来年からたくさん実らせることを計画しておりました」。
(王)「それも結構だが、私は待てんのだ!雑草もないが収穫もないのなら何になろうか!」
またある農夫は実を盗まれて、何も差し出せるものがなくて恐る恐る進み出ました。
(王)「実はどこにあるのか?」
(農夫3)「私の果樹園にはたわわに実が実っていましたが、収穫の時になると、夜の間に全て盗まれておりました」。
(王)「私に嘘は通用しない。そなたの目には嘘がない。しかし実がなくては私を喜ばせることはできんのだ」。
さて、タダシの番が来ました。
(王)「ほう、これほど多くの箱に実を詰め込んでくるとは、これまで見た中で飛び抜けて多くの収穫を得たようだ。タダシと言ったか、どうやらそなたこそこの果樹園を任せるのにふさわしいようだ」。
タダシはそれを聞いてただただ恐れ多い気持ちになって、なんと答えてよいか分からず、ひれ伏しました。ところが王は言いました。
(王)「と、言いたいところだが、全ての者の収穫を見ないうちに決めるのは公義ではない。ここにタダシより多くの収穫を得たものはおるか?」
農夫たちは皆互いに顔を見合わせていましたが、ある農夫が声を上げました。
(農夫5)「王よ、ここにおります!」
その農夫はタダシより多くの箱に収穫を詰め込んで王の前に進み出ました。
(王)「む、これは多いな。タダシの差し出した収穫よりもさらに多い。どうやってこれほどの収穫を得たのか?」
(農夫5)「私には知恵があり、夏の虫も嵐も見通しておりました。そのうえで勤勉に肥料をやってこのように得たのです」。
(王)「ほう、確かにそうだ。知恵があり、勤勉さがなければならない。しかしそれでこれほど多く収穫できるとは、にわかには信じがたいな」。
(農夫5)「運に恵まれ、私が任された土地は肥沃で、木も元気だったのです。それゆえこれほど多くの実を実らせることができました」。
王は少々訝しげに思いましたが、今年一人を選ぶと言った以上、その場で最も多くの収穫を差し出したその農夫を選ぶしかありませんでした。
(王)「良かろう。そなたこそ最も多くの収穫を上げた者であり、この果樹園を任せるにふさわしいものだ。その知恵と勤勉さをもってこれからも私の果樹園で多くの実を刈り取りなさい」。
(農夫5)「は、とても光栄にございます。身の引き締まる思いでございます」。
その農夫はとても喜んで、心の中で言いました、
(農夫5)「やったぞ!そうさ、知恵の勝利さ!不測の事態で自分の手元に収穫がなければ皆から盗んでかき集めたら良いのさ!腕は良いが間抜けな農夫たちめ、『ありがとう』と言わないとね。今度からは虫にも嵐にも気を付けようっと」。
王が解散を命じようとしたその時、青いカササギがその農夫の差し出した箱に降り立って実をつつき、すぐに王の前に捨てました。王が見ると、その実は虫に喰われていました。そして青いカササギはタダシが差し出した箱にも飛び乗って実をつつきました。そちらの実はずっとつついて離さず、しまいにはそれを持って飛び去りました。それを見て王は言いました。
(王)「鳥にもまた天が授けた知恵がある。私としたことが、軽薄なものだ。お前たち、ちょっと二人の差し出した実を切って調べてみなさい」。
そこで臣下たちがナイフで二人が収穫した実をいくつか切って調べてみると、悪い農夫の差し出した実はことごとく虫に喰われていました。一方で、タダシの差し出した実は全てきれいでした。
(王)「タダシが収穫した実を持ってきなさい」。
臣下が実を一つ持ってくると、王はそれを口に入れました。
(王)「むむ…これは、美味い!こっちの実はどうか。これも美味い!」
その後もいくつか二人の実を切ってみると、やはり悪い農夫の実は全て虫に喰われていましたが、タダシの実はきれいでした。
(王)「この悪どい男よ、私に虫の喰った実を食べさせる気か!この悪い実がお前が悪人であることを示している。この盗人よ、行ったとおりに受けるがよい!お前たち、この男を捕えて牢屋に入れよ!この果樹園はタダシに任せることにする」。
この時になってタダシは青いカササギが自分を助けていたことにようやく気が付きました。そして、不思議とそれを王の前で言わなければならない気持ちになりました。
(タダシ)「王よ、とても光栄にございます。しかし知恵は私にあったのではなく、先ほど王が言われたように、あの青いカササギにあったのです。あの青いカササギは私が住むハコブネ村の山の神の使いです。私は田舎の農夫に過ぎませんが、悩む中で幾度もあのカササギの示す知恵によって救われ、今もまた王の前で幸いを得ています。どうか王が許されるならば、今回の収穫の幾分かをハコブネ村の山の神に感謝のしるしとして捧げさせてください」。
タダシがそう言うと、王は言いました。
(王)「万物には知恵があると私は見ているが、それらの万物を遣わす神がおり、知恵はそこから来るということか。この場ではすぐに信じるとは言えないが、捧げものについてはそのとおりにするがよい。これだけの収穫があるのだから、その中のたった幾分かを惜しむ王だろうか。その神からの知恵を受けてこれからも続けて私の前で働くがよい」。
そうしてタダシは果樹園を任される立場になり、トモヨを連れて王の都に引っ越しました。それからハコブネ村の山には新しい祠を作り、古い祠にあった小さな舟もそこに移しました。
タダシはそれからも幾度となく不思議な出来事に遭遇し、ハコブネ村の山の神が自分を助けているのだとますます信じるようになりました。そうして信じれば信じるほど、次第に不思議な夢を見たり、不思議な声を聞いたりするようになりました。タダシは果樹園で働くかたわら、その知恵をもって王の悩みを解決したりして、ますます栄えていきました。
タダシ自身がハコブネ村に毎年多くの収穫の一部を持って帰ったり、タダシが話したことを信じた多くの人々がハコブネ村に足を運ぶうちに、ある時王の命令が出て王の都からハコブネ村への道が整備されるようにもなり、村はまたかつてのように栄えて大きくなっていきました。
それからまた時代が移りましたが、かの青いカササギは今日も祝福の印として、また災いのしるしとして人々の前に現れては、山の神について皆に思い起こさせて飛び去っていくのでした。
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