さて、翌年タダシはいつものように丁寧に穀物を育てました。もはや錆びた鉄の箱は取り出してあったので、畑は豊かに穀物を実らせました。
他の小作人たちは今まで全く実らなかったはずの畑からタダシが豊かに刈り取るのを見て不思議に思いました。しかし、それがどうしてなのかは分かりませんでした。そしてまた収穫の時にタダシが収穫に応じて多くの分け前をもらうのを見て、皆妬みを起こしました。小作人たちはタダシを追い出そうとして金持ちの男に訴えました、
(小作人A)「ご主人様、タダシが多くの分け前をもらうのは正しくありません。タダシが任された畑からは去年は全く収穫がなかったのを覚えておられますか。今年タダシがご主人様に収穫として渡したものは自分の畑から刈り取ったものではなく、私達の畑から盗んだものなのです」。
それを聞いて金持ちの男は言いました、
(金持ちの男)「うむ。言われてみれば確かに去年はタダシは全く収穫がなかった。今年あれだけ多くの収穫があるのは不思議なことだ。もしあなたがたの言うとおり彼が盗んだとしたら、彼をどうするべきだろうか?」
(小作人A)「彼は皆から盗んだのですから、彼が受け取った分け前を返上させるだけでなく、七年分の収穫を償いとして支払わせ、それから畑から追い出すのが良いでしょう」。
金持ちの男は小作人たちの話を信じて、彼らの言うとおりにしました。タダシはその畑の七年分の収穫にあたる穀物を取り上げられ、畑から追い出されました。タダシはその支払いに畑から掘り出したお金の相当な分を使うことになりました。そしてまた将来のために働くことを考えなければなりませんでした。
(タダシ)「なんでこんな目に遭うのだろう。せっかくお宝を見つけたというのに、皆から妬まれてその多くは使ってしまった。これからまた働かないといけないけど、信用もないし、どこで働いたらよいのだろう…」。
トモヨもまた悲しみに暮れ、気がつくとまたカササギを探しに祠の近くまで来ていました。
(トモヨ)「カササギさん、いらっしゃいますか?」
トモヨはカササギがまた応えてくれることを期待して呼びかけましたが、返事はありませんでした。トモヨはまた呼びかけてみましたが、やはり返事がありません。
(トモヨ)「今日はいないのかしら」。
トモヨがそう思って帰ろうとすると、上からカササギの声が聞こえました、
(カササギ)「盗人の妻よ、私はあなたを知りません」。
トモヨはそれを聞いて少し腹が立ちました。
(トモヨ)「私の夫は盗人扱いされて畑を追い出されましたが、労苦して得た収穫を盗んだのは他の小作人たちと、彼らの話を信じた雇い主です」。
そう言うと、カササギがトモヨの近くの木の枝に降りてきました。
(カササギ)「カカカ。私もまた同じように盗人の一味と呼ばれて久しいです。そんな盗人の私に何か御用ですか?」
(トモヨ)「夫が畑を追い出されたので、私たちの生活はまた振り出しに戻りました。自分たちの荒れた畑を耕して食べていかなくてはなりません。これからどうしてよいか分からずにいるのです」。
(カササギ)「私に会う時はいつも悪い知らせと相談ばかりですね。畑から盗み出したお金がまだ少し残っているならそれで商売でもしたらどうですか」。
トモヨはカササギの言葉にどきっとしました。悪い知らせと相談ばかり持ちかけたというのもそのとおりで、畑で掘り当てたお金を誰にも言わずに持っているのもそのとおりだったからです。
トモヨが何を答えてよいか分からずに立ち尽くしていると、カササギはその場を飛び去ってしまいました。
(カササギ)「ではご機嫌よう」。
トモヨはこれからどうしたらよいものか考えにふけりながら家に帰りました。
さて、トモヨは家に帰ってきてからというもの、何日もタダシとろくに会話もせずに深く思い悩んでいました。タダシがその様子を見て尋ねました、
(タダシ)「ここ数日、山から帰ってきてろくに話もしないなんて変じゃないか。山で何かあったのかい?」
トモヨは今までカササギのことをタダシに話したことがなく、今更その話したところでカササギが言葉を話し、かつあらゆることを言い当てるなんて馬鹿げていると言われるのではないかと思って答えるのをためらいました。すると、タダシはまた尋ねました、
(タダシ)「話さなければ何も分からないじゃないか。これからの生活のことで思い悩んでいるのは僕も同じことだろう」。
トモヨは何と答えようか悩みましたが、ふと「馬鹿げていると言われたところで、笑い話にもなればそれはそれで少しは家庭の雰囲気が明るくなるからよいのではないか」という考えが浮かび、カササギのことを話すことに決めました。
(トモヨ)「今までずっと言えなかったことがあります。実は、最初にあなたが金持ちに雇われる前に山の祠の近くで人の言葉を話す青いカササギに出会いました。そのカササギは不思議と私の心の内を知っていて、これまで何度もうまくいかない時に相談を持ちかけては、そのカササギが道を示してくれたのです。ところが、今回またあなたが畑を追い出されたことを話したところ、『いつも悪い知らせと相談ばかりだ』と言われ、『畑から盗んだお金で商売でもしたらどうだ』と追い返されてしまいました。それで、その不思議なカササギにどう接したらよいものかと思い悩み、すごく胸が苦しいのです」。
タダシは言葉を話すカササギというのを聞いて訝しく思いましたが、同時に自分もそれまで見たことのない青いカササギを見たことがあったので、半信半疑で話を聞いていました。そして、妻が悩むのを見て苦しく思って言いました、
(タダシ)「そのカササギに一緒に会いに行くのはどうだろう。そのカササギが畑のお金のことを知っているなら、そのお金も持っていこう。それに、祠の近くで会ったのなら、ひょっとしたら特別な使いかもしれないから、ここにある穀物も少し持っていって供えないといけないかもしれない」。
トモヨはその言葉を聞いて道が見えたような気がして心が少し軽くなりました。そして、タダシと二人で畑から見つかったお金と穀物を持ってカササギに会いにいきました。
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