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短編小説

短編小説『超大企業社員Nの人生』〜第二章 社長の真偽〜

第二章 社長の真偽

Nは未来創生室のSから社長が会社の中から争いをなくしたいとか、実は社長が社員との交流を望んでいるとか、秘めた思いまでさまざまなことを聞かされた。また、その実現のために社員には柔和で、謙遜で、忍耐強く、慈しみ深く、嫉妬せず、時に大胆であってほしいとか、社長との意思疎通を大事にしてほしいとかのいろいろな理想像があることも聞いた。

ビジョンについて一度聞くだけでは理解が難しい部分もあったし、もっと人格的にも成長できると言われてもどうやってよいかも分からない部分もあったが、未来創生室がサポートもするし、これからいろんな環境で働いていく中で適宜意識していれば磨かれる部分もあるという。

とはいえ、Nがなによりまず知りたいと思ったのは未来創生室なるものが本物かどうか、本当に社長直轄で、社長は自分の要望に目を通してくれるのかどうかだった。そこでNはSに尋ねることにした。

N:「ビジョンはなんとなく共感できるし、性格とかは少々自分事として感じますが、社長直々のプロジェクトというのがまだ信じられません。先日話していた専用フォームってどこにありますか?形式とかはありますか?」

S:「お、その気になりましたか。いいですね。専用フォームはこちらです。一人の時にでも書いてください。ちょっと書き慣れないかもしれませんが、今後慣れていってください。最初は私が一緒に書いてもいいですし。

形式はと言うと、さすがに相手が相手なので多少の丁寧さは意識してください。今後いろいろ働く中で社長の計らいに感謝すべきことがあるかもしれないのでまずそれについて書いたり、あとはうまくできなかったことや反省点を素直に伝えたり、決心を伝えたり、その中で要望も伝えたり、とかですね」。

N:「わかりました。自分の願いを聞き入れてくれるというのは本当ですか?」

S:「まあ、そうですね。私自身も叶えていただきましたが、想像以上でした」。

さて、ここでNの対応には再びいくつかの選択肢があった。

■シナリオ1

N:「じゃあ、☓☓部の△△課の○○をぶっ◎※▽してください!!」

S:「はぁ!?社長にひと◎※▽しを願うんですか!?サイコパスですか!?」

N:「なんだ、結局叶えてくれないんじゃないですか。もうこの話は結構です」。

■シナリオ2

N:「私の給料を七倍にしてください!いや、七を七十倍するくらいにしてください!」

S:「はぁ…。別に送るのは構いませんが、それは難しいと思いますよ。だって、その額って役員クラスですし、今のNさんにそれを担えるお力はないかと…」。

N:「なんだ、結局叶えてくれないんじゃないですか。もうこの話は結構です」。

■シナリオ3

N:「とにかく酒とタバコと異性です!それらが毎日尽きることのないように手配してください!」

S:「いや、そういうの社長嫌いなので非常に難しいんじゃないかなと…。重々承知のうえで送ってみるのはいいですが…」。

N:「なんだ、結局叶えてくれないんじゃないですか。もうこの話は結構です」。

■シナリオ4

N:「実は今やっている仕事自体はもう少しだけ学ぶことありそうで続けたいのですが、一緒に仕事をしている〇〇さんが非常に高圧的で苦手で…」。

S:「そうなんですね。じゃあその旨を書いてみましょうか。」

シナリオ1から3を選んでいたらNと未来創生室はこれっきりだっただろう。だが、Nは控えめな要望を伝えたのだった。

それからほどなく、Nが高圧的と感じていた○○には秘密裏に調査がなされ、かくしてそのとおりに違いないことが明らかになったため、しかるべき処置がなされ、Nは仕事により快く取り組めるようになった。

Nはこのことが起きるのを見ると、もしかすると自分が送った要望が本当に通ったのではないかと考えるようになり、少し未来創生室なるものを信じてもよい気がした。

ABOUT ME
マシュー
自分の持っているものを使いたい。神様のために生きたい。それが小さな自分にもできる大きなこと。「この人生を後悔のないように生きるにはどうしたらよいのだろう」と、かすかにくすぶる火種のような、ささやくそよ風のような一人の地球の民。