CGM New Harmony Church

動物たちの愉快な日常
童話

童話『ツブツブ村の餅の尽きない甕』〜第二章 パックが老人から金色の甕を授かる〜

さて、ある日パックがよもぎを取りにいこうと村の背後の山の中へ行くと、山を流れる小川の川岸に一人の老人が倒れているのを発見しました。パックは急いで駆け寄って声をかけました、

「おじいさん、大丈夫ですか?」

老人は答えました、

「通い慣れた道でつい注意を怠って足を滑らせて落ちてしまって…。家に帰るには山を越えねばならぬというのに…」。

パックは老人が人気のない山の向こうに住んでいるというので不思議に思いましたが、いつものように助けてあげようと思って言いました、

「おじいさん、僕が家まで背負っていってあげましょう」。

老人はそれを聞いて言いました、

「なんと、軽い老人とはいえ、人一人を背負って山を越えるのは大変じゃろう」。

パックは確かに大変さを感じつつも、そのまま置いて引き返すこともできなかったので、快く答えました、

「余裕ですよ、おじいさん」。

パックが老人を背負って山を越えると、そこには話に聞いたとおりの深い渓谷があり、澄んだエメラルドブルーの色をした川が流れていました。そして川岸には一隻の舟がつながれていました。

老人は言いました、

「恩に着る、青年よ。あとは一人で舟で帰るわい」。

パックは老人を背負って山を越えたのでへとへとになっていました。それで、その場であいさつをして村に帰ろうとしたところ、老人が言いました、

「そなたはこのように普段から人を助けているのだろう。その心を見てわしからそなたに託したいものがある。しばしここで待っておれ」。

そう言うと、パックが断る間もなく老人は勢い良く舟を漕ぎ出して川を進み始めました。パックは内心早く帰りたかったのですが、今後山を越えてくることはないだろうし、そこに住む老人がお礼に何かをくれるというので仕方なく待つことにしました。

パックは老人が進んでいくのを見て、その川はどこにつながっているのだろうと舟の進む先を見ていると、たちまち周囲に霧が立ち込めて視界が悪くなり、老人の姿も見えなくなりました。

「あぁ、本当に霧がかかる場所なんだな。ちっとも周囲が見えなくて、帰り道がどっちかも分からないな」。

パックが少々不安になりながらしばらく立っていると、霧の中から再び老人が舟に乗って現れました。老人は舟から大きな金色に光っている甕(かめ)を下ろすと、まずパックに小さな包を手渡しました。

「これはそなたが探していたよもぎじゃ。ここまで背負ってきてくれた手間賃として受け取りなさい」。

パックは心の中で言いました、

「このおじいさんはなぜ僕がよもぎを採りに山に入ったことを知っているのだろう」。

パックが驚いた様子でいると、老人はさらに舟から降ろした大きな甕をパックの前に置いて言いました、

「これがわしがそなたに託したいと言ったものじゃ。この甕の中には餅が入っておる。餅はそのまま食べてもよいし、菓子を作るのに使ってもよい。餅が少なくなったらきれいな水を注いで中の餅をこねて蓋をして一日置いておきなさい。すると餅が何倍にも増えるじゃろう」。

パックは、老人が自分がお菓子屋さんをやっていることをも知っているのを分かって、またも驚きました。同時にパックの頭の中には、人気のおはぎをたくさん売って生活が楽になることが思い浮かんで、うれしい気持ちが湧いてきました。そんな心を見透かしてか、老人は厳かな声で言いました、

「ただし、この甕には決してきれいな水以外のものを入れてはならぬぞ」。


パックははっとして、答えました、

「分かりました」。

老人はそれを聞いて言いました、

「これは手元にある最後の甕じゃ。大切にするのじゃぞ」。

そしてまた続けて厳かな声で言いました、

「もう一つ、これを忘れてはいかんぞ。これからうれしいことがあったら、一年に一度、この船着き場から米ひと握りと、そのうれしいことを書いた紙を小舟にでも載せて川に流しなさい。そしてそなたの村の住人にもそうするように伝えなさい」。

そう言い終わると、老人はそのまま再び舟に乗って川を漕いでいきました。パックはふと老人が「甕にはきれいな水以外入れてはいけない」と言った理由を訊こうと思いましたが、老人は霧の中に入って姿が見えなくなりました。

程なくして霧が晴れると、老人の姿はなく、もうすぐ日が暮れそうだったので、パックは急いで老人からもらった金色の輝く甕を箱に入れて担ぎ、山を越えて自分の村に帰りました。

ABOUT ME
マシュー
自分の持っているものを使いたい。神様のために生きたい。それが小さな自分にもできる大きなこと。「この人生を後悔のないように生きるにはどうしたらよいのだろう」と、かすかにくすぶる火種のような、ささやくそよ風のような一人の地球の民。