CGM New Harmony Church

動物たちの愉快な日常
童話

童話『チンシルと虹色の花』〜第六章 空中都市〜

チンシルとポリーのもとに花買いの女が来た翌年の春の日のことでした。チンシルが眠ってい
ると、誰かが家の呼び鈴を鳴らす音がしました。チンシルが起きてドアを開けると、あの花売
りが立っていました。そばには真っ白な馬と、金の装飾がたくさん施された素敵な白い馬車が
停まっていました。
チンシル:「花売りのおじさん、久しぶりですね。突然どうされたんですか?」
花売り:「以前、『花が咲いたらとても良いことが起こるから、その時にまた会おう』と約束
したでしょう?今日がその日です。チンシルさんの庭に咲いた花とチンシルさんを迎えに上が
りました」。
チンシル:「え?一体どこに行くんですか?」
花売り:「この美しい花を持っている人しか入れない都に行きます。この特別な馬車で都まで
行きますよ」。
チンシル:「でもまず私の両親に話さないといけません。花売りと出かけるといったら心配し
ます」。
花売り:「既に話はしてあるから問題あいませんが、まあ、挨拶くらいはしたら良いともいま
す。なにせ最低でも一年はそこに滞在しますから。そうそう、服もこれに着替えてください
ね。都では皆着飾っているので、その服では恥ずかしい思いをしてしまいます」。
そう言って花売りはチンシルに白に金色の装飾が施された美しいドレスを手渡しました。
チンシル:「一年!?そんな急に言われても…。一体どうやって暮らすのですか?」
花売り:「心配は無用です。あなたの住む家も食べ物も都で用意していますから。さあさあ、
早くご両親に挨拶してきてください」。

チンシルはお父さんとお母さんを起こして花売りと一年くらい出かけると話をしました。お父
さんもお母さんも特段心配する様子もなく、「全部話は聞いているから、行ってらっしゃい。
良かったね」と言って送り出してくれました。
チンシルが花売りから渡されたドレスを着ると、不思議とサイズがぴったりでした。そして、
鏡で自分の姿を見ると、そのドレスも、自分の姿もあまりにも美しいものでした。
チンシル:「わぁ…。きれいなドレス。それに、これ本当に私なの…?」
チンシルが見とれていると、チンシルを呼ぶ花売りの声がしました。チンシルが家を出ると、
花織が言いました。
花売り:「では庭に咲いている花を馬車に積み込みましょう。チンシルさんしか花は抜けない
ので、ここまで持ってきてもらえますか?」
チンシル:「え?抜いてしまうんですか?」
花売り:「はい、それを持っていかないと都には入れません」。
チンシル:「ではこの先はもう花を育てないのですか?」
花売り:「いや、その花は都に用意してある家にまた植えて今後も育てるのでご心配なく。こ
の家でのことはまた追って話しますから」。
チンシルは庭に行って花をつかむと、力を入れて引っ張りました。すると、かつて泥棒が掘り
返そうとしても抜くことができず、ナイフで切ろうとしても切ることができず、火で燃やそう
としても燃えなかった花が案外簡単にすぽっと抜けたのでした。
チンシル:「あれ、こんなに簡単に抜けちゃった…」。
チンシルが花を馬車に積んで乗り込むと、花売りが馬車を動かしました。馬車は村を出てだん
だん速度を上げ、平原をすごい速さで駆け抜けると、だんだんと宙に浮かび上がりました。
チンシル:「わあ、飛んでる!飛んでるよ、花売りのおじさん!」
花売り:「ははは、落ちないように気をつけてくださいね」。
馬車を引いている馬を見ると、馬にはいつの間にか翼が生えていました。馬車は空を駆けなが
らどんどん高く登っていき、地上の町が小さく見えました。そうして、馬車は遂には雲を通り
抜けました。
雲の上に出ると、太陽がまぶしく輝いていました。一面の雲の海にチンシルは心を踊らせまし
た。しばらく走っていると、チンシルが乗っているのと同じような馬車がいくつか近づいてき
ました。
チンシル:「おじさん、皆私達と同じ都に向かっているんですか?」
花売り:「そうですよ。もうすぐ都に着きます。王様もあなたたちが都に来るのをとっても楽
しみにしておられますよ」。

やがて遠くに都が見えてきました。都は城壁に囲まれていて、中にはとても高い建物がいくつ
も立ち並んでいるようでした。そして、近づけば近づくほど都の壁がとてつもなく高く、また
キラキラとダイヤモンドのように輝いていることが分かりました。
都の門に着くと、馬車が並んでいました。門番が一人ひとり都に入れるかどうかを確認してい
るのでした。
門番:「はい、次の方。通行証を見せてください。はい、通っていいですよ」。
やがてチンシルたちの番が回ってきました。
門番:「はい、次の方。通行証を見せてください」。
花売り:「初めて都に来られた方です」。
門番:「では都に入るための資格証はありますか?」
花売り:「はい、こちらに積んである花です」。
門番:「おっと、これはなんとも素敵な花ですね。これほど大きく美しく咲いた花はなかなか
ありません。きっと王様もとても喜ばれることでしょう。どうぞ、お通りください」。
チンシルたちが門を通り抜けて都の中に入ると、地面には金色のレンガが敷き詰めてあり、建
物は城壁と同じダイヤモンドのような壁でできていました。屋根は色とりどりの美しい宝石で
できていました。街路樹もガラスのように透き通っていて、風が吹くと葉っぱがこすれて優し
い鈴のような音が鳴るのでした。
チンシル:「(こんな都があったなんて…。なんて幻想的なところなのかしら)」。
花売り:「きれいなところでしょう?ここは都の入口だからあまり人は住んでいなくて、都の
中では静かで落ち着いたところです。都の中心に近づくほどもっと建物は壮大で、美しいもの
が立ち並びます。中には宙に浮かぶハートや星の建物なんかもあります」。
チンシル:「宙に浮く建物なんてあるんですか…?私の家はどの辺りなのでしょうか?」
花売り:「それは着いてからのお楽しみです。でも、気に入ること間違いなしです」。
チンシルの家に向かって出発すると、都の中はとても城壁の中とは思えないくらい広く、大き
な山や湖もあるのでした。
花売り:「あの湖は釣りで美しい花を咲かせたという人の家の敷地の中にあって、その人がそ
こで取れた魚を隣人や王様に振る舞うこともあるのだとか」。
チンシル:「ええ!?あれが一人の人の家なんですか!?」
花売り:「あなたも牛や羊を飼っていたから、自然は好きでしょう?あなたの家にもあれくら
いの庭はありますよ」。
それから馬車はまた町を通り、また人々の居住地である広大な自然を駆け抜けていきました。
都の中心に近づくにつれて建物も自然も大きいだけでなくより輝きを増していくのでした。町
を行き交う人々の服装もより洗練されたものになり、皆色も形も奇抜な光り輝く服を着ている
のでした。

花売り:「さあ、着きましたよ」。
花売りが停まったのは連なる山や牧草地、湖に囲まれた大きな城でした。
チンシル:「これ、私の家ですか?何人か一緒に住んでいるのではないですか?」
花売り:「いえいえ、あなた一人の家ですよ。これくらい広くないとすぐに飽きてしまうでし
ょう?もちろんお手伝いをしてくれる人たちを呼ぼうと思ったら呼ぶことはできます」。
チンシル:「でも寝るのは一つの部屋だし、一人じゃ掃除も行き届かないですよね」。
花売り:「そうだった、まだチンシルさんはこの都で動き回ってないから感覚が違うのです
ね。じゃあ、ちょっと練習してみましょうか。私がこの城のあの角まで走っていくのでよく見
ておいてください。
一、二、一、二、じゃあ行きますよ。よーい、ドン!」
チンシルが見ていると、花売りが大きな城の入口から角まで一瞬で飛んでいきました。
花売り:「分かりましたか〜?じゃあ戻りますね〜」。
そしてまた見ていると、一瞬でチンシルのもとまで飛んできました。
花売り:「そうですか?ここでは皆とても速く走れるし、飛ぼうと思ったら飛ぶこともできて
しまうんです。チンシルさんも徐々に慣れてきたら、このくらいの城がちょうどよく思えてく
るでしょう」。
チンシルは何が起こっているか分からないままでしたが、ひとまず城の中に入りました。城の
中には大きな宝石でできたシャンデリアがたくさん取り付けられていて、置いてある家具もど
れも上等なものばかりでした。
花売り:「あなたは音楽で花を咲かせた人だから、とびきりの音楽室もありますよ。ここは自
然のど真ん中だし、周りの山も湖も牧草地も全部あなたのものなので、地下に音楽室を作る必
要あはりません。城の上の方で最高の景色を見ながら演奏すればよいのです」。
そういって二人が城の真ん中のホールの端に行くとくぼんだ場所に光る足場がありました。二
人がそこに乗ると眼の前に「音楽室、食堂」というパネルが現れました。花売りが「音楽室」
というパネルにふれると足場が宙に浮かんで上がっていくのでした。
音楽室に入ると、そこにはとてもいろいろな種類の楽器が飾られていました。そこにはチンシ
ルがいつも吹いていたフルートの他、ドラム、バイオリンと呼ばれる楽器、それにフードを被
った女が花と交換しようと言ってきた大きなハープもありました。
花売り:「どうですか?とってもすごいでしょう?これが全てあなたのものなのです。これか
らは好きなだけ音楽を練習して、それを他の人たちに聞かせてあげてください。ひょっとする
と、いつか王様にも披露する時が来るかもしれません」。
チンシル:「そんな、これが全部私のもので、いくらでも練習していいだなんて。それに私の
ような田舎の村の人間が王様にも披露するなんて、夢でも見ているようです」。

花売り:「あなたはこの都では大都会の大金持ちです。ここは都の居住地の中でも一等地です
よ。
それじゃあ、お腹も空いたと思いますから、食堂でご飯でも食べましょうか」。
チンシルと花売りはエレベーターで食堂に降りて席に着きました。
チンシル:「ご飯はどうするんですか?」
花売り:「メニューがここにあります」。
花売りが机の横にあるボタンに触れると、机の上にパネルが浮かび上がりました。そこには食
料庫にある素材を使ったおすすめのメニューが書かれていて、食べたいメニューをタッチする
と料理が作られてキッチンから空飛ぶお盆のようなものに載せられて運ばれてくるのでした。
チンシル:「こんな便利な仕組みがあるなんて、便利すぎて怠けてしまいそうです。ちなみに
食料はどこで買えばよいのですか?」
花売り:「キッチンにパネルがあるので、そこで注文したいものを選んでタッチすればいいで
すよ。食料の消化具合は全て管理されているので、頼みすぎることはないようになっていま
す。
さあ、ご飯が運ばれてきましたよ」。
チンシル:「いただきます。…。ものすごく美味しいです!」
花売り:「そうでしょう。メニューも頻繁に入れ替わるので飽きることもありません」。
二人はお腹いっぱい食べて、眠くなりました。
花売り:「では、お腹もいっぱいになったところですし、チンシルさんの寝室をご案内して私
は失礼しますね。明日は都の中心の町に出かけましょう」。
花売りはチンシルを寝室まで案内すると帰っていきました。チンシルが寝室に入ると、まるで
王様が寝るようなカーテン付きの大きなベッドがありました。また、壁にはたくさんのモニタ
ーがあり、城の中の様子や、牛や羊がいる牧草地の映像、山の中の映像、湖の周りや水中の魚
たちの映像などが写っていました。チンシルが山の中が写っているモニターを見ながら、自分
がこちらを見たいと思うとその方向に映像が動き、あちらを見たいと思うとその方向に映像が
動くのでした。そうやってモニターを通じて山の中を自由に散策できるのでした。
チンシルは寝ようとしてベッドに横たわりました。「部屋が明るいな」と思ったら、自動的に
部屋の明かりが暗くなりました。カーテンを閉めたいと思ったらカーテンも自動的に閉まるの
でした。
チンシル:「考えたとおりに全部動くのかしら?どういう仕組みなんだろう。この都の中はい
ろんなことが不思議だな」。
チンシルは今日都で見たことを思い返しながら眠りにつきました。