CGM New Harmony Church

動物たちの愉快な日常
童話

童話『チンシルと虹色の花』〜第四章 誰にも奪えない花〜

チンシルが音楽に夢中になって取り組んでから一年が経った時、花は少しだけ開いていて、美
しい青色になっていました。
いつものようにチンシルが庭で楽器を演奏していると、何やら見たことのある顔のおじさんが
話しかけてきました。
おじさん:「素敵な演奏ですね、お嬢さん。身近にある物で楽しそうに演奏している姿に心が
惹かれてしまいました。音楽はそうでなくては」。
チンシル:「ありがとうございます。昔からその辺にあるものを叩いて音を鳴らすのが楽しく
て、今でもこうやって続けています。でも本当はちゃんとした楽器を使えたら、もっときれい
な音で演奏できるのにと思っています」。
おじさん:「おや、そうですか。では笛なんかどうでしょう?どこにでも持って行けて、楽し
い音色が出ますよ」。
そのおじさんは長いこと歩き回っているのか、少しくたびれた服を着ていました。チンシルは
その服装を見ながら、そのおじさんが本当に音楽を分かるだろうかと疑いましたが、口に出す

ことはせずに丁寧に答えました。
チンシル:「どこにでも持っていけるというのは良いですね。でも笛なんて村では売っていま
せん」。
おじさん:「私はいろんなところで花の種を売っているので、この村では手に入らないような
物も持っています。私がここに笛を持っているので、それをお嬢さんにあげましょう。私があ
げた種を大切に育ててきれいな花を咲かせてくださっているので、お金はいりません」。
それを聞いてチンシルは思い出しました。そのおじさんは以前村に不思議な種を売りに来た花
売りでした。思ったことを口にしないで良かったと安心しながらチンシルは言いました。
チンシル:「あの時の花売りですね!?どこかで見たことがあると思っていました。花はよう
やく少しだけ開いてきました。大きくて素敵な青い花になっています」。
花売り:「お久しぶりです。ひょっとしてまた服がくたびれていると言われてしまうかと思っ
ていましたよ。お嬢さんも成長しましたね。
その花はこれからもっと大きく開いて、色も形ももっと変化します。村の人もそうでない人も
皆見に来たくなるくらい美しい花を咲かせるでしょう。そして、それを欲しいという人も出て
くるはずです。
でも、絶対に手放してはいけませんよ。あなたが手放さない限りはこの花は誰にも持っていく
ことはできません。
花が咲いてから少しの間だけ待っていたら、必ずとっても良いことが起こります。だからまた
その時に会いましょう。笛の吹き方については本も差し上げますので、頑張って練習してみて
ください」。
花売りはそう言ってチンシルに笛と本を渡すと去っていきました。
そして、ポリーが家の作業場で荷車を作っていると、花売りが現れて話しかけてきました。
花売り:「お久しぶりです。三年半ぶりですか。今や器用にいろんな物を作ってしまうんです
ね」。
ポリー:「あ、もしかしてあの時の花売りですか?もらった花はこのとおりきれいに咲いてい
ますよ。こんな赤とオレンジ色の花になるとは思わなかったです」。
花売り:「これもまたきれいに咲いていますね。どうですか?飽きない花でしょう?この調子
であなたの個性を育ててください。花はそれに応じてもっと変化していきますよ。
もしかしたら近いうちにこの花を譲ってほしいという人が現れるかもしれません。しかし、最
初に話したように、絶対に他の人にあげてはいけません。せっかく花開いたあなたの個性が死
んでしまいます」。
ポリー:「本当にそんな人が来るでしょうか。花をあげたら僕の才能もなくなるというのもな
んだか信じられません。でも、気を付けます」。
花売り:「よろしく頼みますよ。ところで、あなたが大切に花を育てているようなので、何か
プレゼントを差し上げましょう。何か今欲しいものはありますか?」
ポリー:「のこぎりの切れ味が悪くなってきたから、のこぎりでしょうか」。
花売り:「そう言うと思って実は大きな町で良いものを買っておいたのです。丈夫で切れ味抜
群です」。
ポリー:「え、これくれるんですか?」
花売り:「はい、どうぞ。でも本当に花は譲っちゃだめですよ」。
ポリー:「はい…。ありがとうざいます」。

花売りはこうしてポリーのものとを去っていきました。
チンシルもポリーも花売りから新しい道具をもらって一層熱心にそれぞれの好きなことに取り
組みました。そうして二人の花はますます大きく咲いて、色も形も美しく変わっていきまし
た。
花は次第に噂が広まり、村の人だけでなく、村の外からもひと目見たいとチンシルとポリーの
家を訪れる人が現れるようになりました。しかし、中には悪い考えを持つ人もいて、チンシル
たちの花を盗んで売ってしまってお金に替えようとする人もいたのでした。
ある日の晩にチンシルが寝ていると、庭で物音がしたので、チンシルは目を覚ましました。
チンシル:「なんだろう、こんな夜中に」。
チンシルがそっと窓から庭を覗いてみると、誰かが庭の花を引っ張っているようでした。チン
シルは恐ろしくなって、カーテンに隠れてじっとその人影を見ていました。少しすると、今度
はその人はスコップのようなもので地面を掘り始めました。チンシルは声を出せないまま心の
中で叫びました。
チンシル:「(ああ、やめて!すごく大変な思いをして育てたのに…!)」
それでもチンシルは怖くて声を出せずただじっと見ていることしかできませんでした。しか
し、どれだけ時間が経っても、その庭に忍び込んだ人は花を掘り出せないようでした。そし
て、小さく男の声が聞こえてきました。
盗人:「どうなってるんだ!引っ張っても抜けないし、土も掘れやしない…。岩でも埋まって
いるのか?ええい、こうなったら茎を切って持っていってしまえ」。
チンシルはそれを聞いてもう胸が張り裂けそうでした。
チンシル:「(なんてひどいことするの!?ああ、誰か花を助けて…!)」
それから盗人は何かを取り出して花に何度も打ち付けましたが、チンシルにはそれが金属がぶ
つかる音のように聞こえました。そして、そのうち男の手から何かがすっぽり抜けて飛んでい
きました。そしてまた小さく声が聞こえました。
盗人:「なんなんだこの花は!金属でできているのか!?ナイフが飛んでいってしまったじゃ
ないか!だめだ、この花は抜けない。いまいましい花め!こうなったら燃やしてやれ!」
そう言うと盗人はマッチを取り出して火を灯し、それを花に近づけました。チンシルはどうな
るか見ていましたが、マッチの火は小さいままで、一向に花に燃え移る様子はなく、そのうち
火は消えてしまいました。そして、盗人が庭から出ようとしたその時、大きな声が聞こえまし
た。
大人の声:「泥棒だ!捕まえろさっきからそこでこそこそ何かやっていたぞ!」

見ていると、二人の大人が走ってきて逃げようとした盗人を捕まえました。チンシルのお父さ
んとお母さんもそこに駆けつけていました。それからまもなく、お巡りさんが来て、泥棒を引
っ張っていきました。
チンシルはほっとしてベッドに倒れ込みました。そして花売りが「この花はあなたが手放さな
い限りは誰にも持っていけない」と言っていた言葉を思い出しました。
チンシル:「良かった。これなら誰かに狙われても大丈夫だ」。
この夜の話はまた噂として広まり、チンシルとポリーの庭の花は誰にも持っていけない世界一
美しい花として有名になりました。
ABOUT ME
マシュー
自分の持っているものを使いたい。神様のために生きたい。それが小さな自分にもできる大きなこと。「この人生を後悔のないように生きるにはどうしたらよいのだろう」と、かすかにくすぶる火種のような、ささやくそよ風のような一人の地球の民。