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動物たちの愉快な日常
童話

童話『チンシルと虹色の花』〜第一章 見知らぬ花売り〜

大陸のある東方の国にタマムシという大きな村がありました。タマムシは山の麓にあり、家畜を飼う人もいれば、他の国から仕入れた物を売って商売をする人もいましたが、いろいろな種類の花を育てて他の地方に売ることで生活をする人が多くいました。

そんなタマムシ村にチンシルという少女が暮らしていました。チンシルの家は牛や羊を飼っており、貧しくもなく、豊かでもなく、質素な服を着ていました。またチンシルは音楽が好きで、幼い頃から大人にとってはつまらないものを楽器のようにして音を鳴らしては楽しそうに笑うのでした。

一方で、チンシルは思ったことをあまり考えずにそのまま口にしてしまうことで、しばしば両親や友達を怒らせてしまうことがありました。両親や友達が怒るたびに、チンシルはあまり良くない癖だと思いながらも、結局はすぐに忘れて同じことを繰り返してしまうのでした。

ある日チンシルが村の市場に出かけると、村で見かけたことのない花売りが人々に種を売っていました。

花屋:「この種は世界に一つだけの花を咲かせます。育てるのは長い時間がかかり、肥料も特別なものが必要ですが、一つひとつ色も形も全く異なり、見ていて決して飽きない美しい花を咲かせます」。

タマムシ村では花の栽培は盛んだったので、皆花売りの話を疑いました。

村人:「花が一つひとつ異なるわけないじゃないか。この村は花の栽培で有名だというのに、そんな嘘に騙されるわけがないだろう」。

花売りは相手にされず、市場からとぼとぼと去っていきました。チンシルは「本当にそんな花があったら面白いのに」と思いながら、その後ろ姿を見送りました。それから市場で買い物を済ませて家に帰る道に着きました。

家の近くまで来ると、さっきの花売りが道端で男の子と話していました。その男の子はチンシルの近所に住むポリーでした。ポリーは大工の家の子で、いつもお父さんが作ってくれたいろいろな木のおもちゃを持ち歩いているのでした。

ポリー:「本当に僕だけの花が咲くの?」
花売り:「そうだよ。それは、この花の肥料が特別だからなんだ」。
ポリー:「へえ、どんな肥料を与えるの?狼の糞でも与えるの?」
花売り:「この花の肥料は糞とかではなく、君が得意なことや好きなことで皆を喜ばせることなんだよ。そうするためには君がつらい思いをするかもしれないんだ。それでも諦めずにもっとよくできるように努力して続けたら、この世界で君だけの世にも美しい花が咲くんだ」。
ポリー:「それは確かに世話が面倒だね。でももし種がそんなに高くないなら試しに育ててみてもいいよ。その種はいくらするの?」
花売り:「値段は決まっていないよ。君が交換してもよいと思えるものと交換しよう。でも一つ言っておかないといけないことがあってね。この花が育ってきたら高いお金や君が大好きな物で買いたいという人が現れるかもしれないけど、花とお金を交換してはいけないよ。もし交換したら君の得意なものが失われてしまうんだ。その代わり、大切に育てていたら必ずとても不思議な良いことが起こるからね」。
ポリー:「不思議な良いことって何?」
花売り:「それは、起きてからのお楽しみだよ。でも、絶対に起こるから、忘れないでね」。

ポリーはそれから家に行って木の馬のおもちゃを持ってきました。

ポリー:「これ、よくできてるでしょ?僕がもっと小さかった時にお父さんが作ってくれたんだ。でももう使わないからこれと交換しよう」。
花売り:「素敵なおもちゃだね。もちろんだとも」。

そうしてポリーと花売りはおもちゃと種を交換し、ポリーはいえに帰っていきました。

チンシルはそのやり取りを聞いていて、自分も育ててみたいと思って花売りに話しかけました。

チンシル:「おじさん、その種を私にも下さい。私はさっき市場で買ってきた髪飾りを差し上げます」。
花売り:「おや、良いのかい?可愛い髪飾りだね。ありがとう。でも、この花はこの髪飾りよりもずっとかけがえのないものになるからね。大切に育てていたら、ものすごく良いことが起こるから、絶対にお金やお嬢さんの欲しがるものと交換してはいけないよ。もし交換したらお嬢さんの得意なことができなくなってしまうから、覚えておいてね」。
チンシル:「交換したら得意なことができなくなるなんて嘘っぽいです」。
花売り:「これは本当のことなんだよ。良いことが起こるというのも本当だよ」。
チンシル:「おじさんは自分で育ててみたのですか?服はあまり良いものを着ているようには見えません」。
花売り:「ははは、ちょっとみすぼらしい格好だから信じられないかな。でもおじさんもちゃんと花を育てて、すごく良いものをもらったよ。もう何もいらないくらいです」。
チンシル:「ふーん。全部は信じられませんが、とりあえず育ててみたいです」。
花売り:「育てていたら信じられるようになりますよ。そうそう、お嬢さんにも念の為に伝えておくと、この種を育てる中で、他の人に理解してもらえなかったり、力がたりなかったり、自分を変えるために我慢しないといけなかったりして、つらい思いをすることもきっとあります。それでも努力して続けたら花もお嬢さんも皆が見とれるくらいになるんだよ」。

こうしてチンシルもポリーも花売りから種をもらって家に帰り、二人はそれぞれ庭にその種を植えました。
ABOUT ME
マシュー
自分の持っているものを使いたい。神様のために生きたい。それが小さな自分にもできる大きなこと。「この人生を後悔のないように生きるにはどうしたらよいのだろう」と、かすかにくすぶる火種のような、ささやくそよ風のような一人の地球の民。