延長戦に入り、
既に互いに疲弊して勢いはない。
互いに組んでいた体が離れると、
一方は天を見上げた。
そしてもう一方には審判から警告が入った。
再び合図が下る。
警告を受けた者が進み出る。
その視線は、
ひたすら前だけを見ていた。
相手をつかみ、
突き離されて、
また組んで、
相手を打ち倒しに掛かるも、
相手もまた世界の頂上に登ってきた者であって、
必死に抵抗して危機を逃れた。
勝負はなかなかつかなかった。
それでも彼は前進し、
合図と共に離れるや、
相手を追うかのように即座に詰め寄り、
相手の道着をつかみに行くのであった。
時に従って離れても、
自らの乱れた道着を直すこともなく、
ただ相手だけを見据えて再び迫っていった。
相手はもはや組んでも後退するばかりであった。
その圧倒的な重圧から逃れようとしたのだろうか。
しかしその四角く区切られた舞台は狭く、
隅に押し込まれていった。
その恐ろしいほどの強靭な精神の前に
もはや勝負は決していたのだ。
彼は完全な強者であった。
その敗れた者はその強者に飲まれたのである。
程なくして一瞬で勝敗はついた。
倒れた相手は仰向けのまましばし天を見ていた。
勝利した者も特別な仕草をするわけではなかった。
「最後までやる者が勝利する」。
そう言われた主の姿が彼に重なるようであった。
神はこの事を悟らせようと、
今日のこの試合を私に目撃させたのだ。
ある事は相手の求める水準に達していない。
ある事は相手の求めているものと相容れない。
しかし御心は何なのか。
私が受けるべきものがあり、
他人が受けるべきものがある。
私が成すべきことはその道では成されないというだけである。
私に与えられた道に行き、
その果てで遂にはその目的を成し遂げる。
それが勝利であり、
栄光である。
それだから今日も前進しなければならない。
涙ぐましい過程を経ながらも、
いつしか訪れる機会をつかみ、
大きな歴史を成していくのだ。
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